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【読書156】文明は農業で動く

文明は農業で動く」(吉田太郎/築地書館/茨城県立図書館所蔵)


近代農業は石油で動く工業だ(2ページ)

化学肥料と農薬、販売種子に依存し、多量の水を消費する現代農業への批判とともに、「持続可能な農業」が叫ばれて久しい。その言葉自体、手垢にまみれた感すらある。
実は、ラテンアメリカは現在、有機農業、アグロエコロジーが急発展しているエリアであるという。本書ではメキシコやインドを始めとした世界各地に現存する伝統的農業、「古代農法」を紹介しつつ、その可能性と、モノカルチャー型の現代農業のリスクを論じている。

全体としてのポイントは地力の維持と、自然災害をいかに乗り切るかだろうか。
どのように肥料を得て土地を痩せさせないか、いかに水害や干ばつの影響を減らす圃場環境を構築するか。最終的には、同じ場所での連作をどれだけ可能にするか、である。
自然条件に依らず常に一定の数量を確保するためには、テラス農法やマルチなどの圃場的な面と、各種自然条件で適応可能な品種の確保(品種の多様性の確保)が必要となってくる。
圃場的な意味では、最終的には就労人数を増やし手間をかけて農業というより農村を、もっと言えば農を含むコミュニティーをいかに営むかという問題だ。このコミュニティーの一例がバリの水をめぐる神殿である。

全体のシステムとして文明や文化を評価する、というのはジャレイド・ダイアモンド以降、ひとつの流行なのだろう。シンプルに考えることを数多積み重ねても、なかなか複雑系にはたどり着けない。その複雑系をありのまま評価する新しい学問領域がメジャーとなりつつある気配を感じた。

各論で気なった部分は以下。
緑の革命の最初の例であり成功例としてよく取り上げられるメキシコの農業の現状。
現地に暮らす人々の実感としての成功と失敗は、また異なる。
本書とは別の資料によれば、緑の革命の以降、メキシコ国内において大規模な飢餓は発生していない。これのまた事実なのだ。
ごくシンプルに考えて、栄養状態が良くなれば人口は増える。そして一家族における労働人口が増えれば、労働力が余るので、出稼ぎに行く人も出てくるだろう。
飢えて死ぬ人間が減ることを「良い」とするのがひとつの価値観であるのと同様、どれほど飢餓に苦しめられて時に死者が出ようとも、実際の農業従事者が幸福であることを「良い」とするのも一つの価値観である。

メキシコの古代農法として紹介されているミルパでは焼畑によって2年連作したのち、最大で8年もの休耕を必要とする。
これは果たして本当に単位面積当たりの収量が増加したと言えるのだろうか。
10年のうち2年しか収穫できないのであれば、単位面積当たり5倍の収量が見込めなければ、より収量がいいとは言えないのではないだろうか?
持続可能な農業を謳うのであれば、10年、20年といったスパンでの収量比較が必要ではないだろうか。

メキシコ同様に緑の革命の成功例とされるインドやスリランカの現状は、なかなかにセンセーショナルである。曰く、高コストの農業である一方で、収益につながらず、自殺者が増えている。
初期投資が高くなったとき、その資金は借金による。収量が得られなければ、利益は出ない。高コスト化すればするほど採算ラインは上がっていくが、良い種子良い農薬良い肥料を使っても、宣伝されるような収量が得られるとは限らない。
そして、借金で首の回らなくなった農業従事者は、首をくくるしかなくなっていく。

中国青田の水田養魚はなかなか興味深かった。水田で稲を育て水田の水で鯉を育てる。鯉は害虫を食べて生育し、土をかき混ぜ、最終的にはタンパク源となると言う。手間はかからない。
しかしそれすらも現代では風前の灯火だとか。農薬散布を衰退の一つの理由として挙げているが、はたしてそれはどうだろうか?
日本国内では除草剤にしても、殺虫剤にしても、基本的に環境への流出を前提として、水生生物への影響がない値で農薬としての使用可能量が決定される。日本と中国で状況は違うだろうが、衰退の原因は農薬より経済的合理性や他の理由であると考えた方が妥当ではないだろうか。
言い換えれば、農薬登録時に水生生物への影響が加味されている日本であれば、無農薬水田に関わらず、この水田養魚の導入は簡単であるかもしれない。

肥料という観点から共通するのは根粒菌をもつマメ科植物の利用、農業残渣及び動物由来の糞尿の利用であろう。
農薬サイドでは、食虫動物の利用と品種の選定、混作と異なる作物を含む連作ローテーションか。
どちらの場合も、圃場を含む集落全体に環境構築が必要となっている。

全体に良い面が目立つが、休耕期の足らない焼畑のように伝統農法が荒廃の原因となる例もある。過去には、同様に長期的に持続可能な農業システムを持ちながらも、衰退してしまった文明もあるはずである。
メリットを知ればデメリットも知りたくなる。そういう意味ではやはり、現代農法の功罪の功にあたる部分、古代農法の罪にあたる部分も紹介して欲しかった。
ビニールハウス、化学肥料、収穫用コンバイン。確かに現代農法は石油化学製品がなければ立ちゆかない。とはいえ、100年前の技術水準では、現代の世界人口の35パーセントしか養えないと言われているのもまた事実なのである。
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テーマ:読書記録 - ジャンル:小説・文学

  1. 2014年11月27日 10:51 |
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