[insoluble] (読み:インソルブル) クロスステッチとか手芸とか料理とか写真とかバイクとか動物園とか博物館とか水族館とかが好き。読書の日記です。 よろしくお願いします。

[insoluble] 読書と刺繍日記

【読書185】ロードス島攻防記

ロードス島攻防記」(塩野七生/新潮文庫)


ドルチェと呼ばれるほどの甘い気候、薔薇の咲き乱れる古代文明の気配を感じる島、ロードス。
エジプト・シリアを手中に収めたトルコにとっては内海と呼べる東地中海に位置しながら、キリスト教の宗教軍である聖ヨハネ騎士団が統べる島。
1522年。大トルコの若き三代目スルタン、スレイマンは、ついにロードス島の攻略戦を開始する。

ロードス島に、聖ヨハネ騎士団の欠員補充としてやってきた、先代の騎士団長の甥であるアントニオは、美しい騎士と出会う。
折しも、ロードス島攻略戦の直前のことであった。
アントニオは、これほど美しい造形物を、これまで見たことはなかった。(25ページ)

亜麻色の髪に、薄い青灰色の目、浅く日焼けしたその騎士の名前はオルシーニ。
ある宗教において、美しい、というのは、それだけでとても価値のあることだという。なぜならば、神が美しく作ったのであるのだから。

僧籍に属する騎士団にあって、素行に問題ありとされながらも、家柄、聡明さとも申し分のないオルシーニは、正に神の恩恵を受けて生まれた者であった。

「人間には誰にも、自らの死を犬死と思わないで死ぬ権利がある。そして、そう思わせるのは、上にある者の義務でもある。」(130ページ)

オルシーニのセリフは印象的である。
大国主義に移行する直前、数よりも質が物を言うと考えられていた時代である。
貴族であり騎士であり、上にある者である彼は、ロードス島の置かれた状況、騎士の置かれた状況を肌で感じていたのだろう。
滅びゆく階級は、常に、新たに台頭してくる階級と闘って、破れ去るものなのだ(148ページ)

「コンスタンティノープルの陥落」では、ビザンチン帝国、という長い歴史を持つ国、そして老齢の帝が、若い国、若いスルタンに倒された。
そこには正に、滅びゆく階級と新たにに台頭してきた階級の戦いがあり、ビザンチン帝国は正しく滅亡した。
しかしロードスはどうだろうか。
オルシーニの語るように、騎士、という身は確かに滅びゆく階級に属している。一方で、闘いに身を投じた騎士達は年若く、対するスルタンもまた若い。
そのせいか、篭城という状況であっても雰囲気は明るく、子供同士のちょっとした喧嘩のような、無邪気さを感じた。

イスラムの彼らが、降伏の時ですら甲冑を纏い威風堂々と馬にまたがる騎士達を、呆然とみつめたように、騎士らもまた豪華絢爛なテント、衣類、スルタンらの話すギリシア後に唖然とした思いだったのだ。
このごく素直な「すごい」という気持ちだけで、お互いに接しあえたら、違う未来があったのかもしれない。
しかし500年を経た現代でも、両者の溝は埋まらぬままである。

***

もう一つ、書評とは違うが、とても印象に残ったシーンを。

1187年、イェルサレムが再びイスラム教徒の手に帰してからの、パレスティーナの十字軍勢力存亡を期する数々の戦闘では、キリスト教徒を地中海に追い落とすことこそアラーの神の意志であり、ゆえにそれを実現する戦いはすべて聖戦と信じて向かってくるイスラム教徒の狂信に対し、同じたぐいの精神で立ちはだかったのは、宗教騎士団の騎士たちであったのだ。(33ページ)


「イスラム国」という表記には反論が多く、実際に「イスラムを名乗るテロ組織」が実情と言われている。
彼らの信じる「神」がなんであれ、否、彼ら以外の存在であっても、狂信をもって向かってくるのであれば、我々はどのように対抗すべきなのだろうか。
同じように信念を持って、守護してくれる「騎士」はおらず、自らが「騎士」として振舞うことはもちろんできない。
答えの出ない問答であるが、繰り返さずにはいられない、そんな気分である。
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  1. 2015年02月27日 10:56 |
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【読書184】イスラームの世界地図

イスラームの世界地図」 (文春新書/21世紀研究会)


「イスラム原理主義」、「イスラム過激派」、ニュースを賑わすそんな単語に、なんとなくイスラム=過激で怖いもの、というイメージをもっていないだろうか。

本書は
しかしイスラームについて、私たちは何を知っているのだろうか。もしかしたら私たちは、西欧諸国によってつくられた否定的なイスラーム像の影響を受けているのではないか。(5ページ )

という前提をもとに、イスラム世界について解説している。
そもそもイスラムとはどういう宗教なのか、にはじまり、イスラム世界と各国の関わり、イスラム初期の歴史から近代史まで。
パレスチナが如何にして宗教対立を起こし、紛争の火種を抱える地域へと発展してしまったのか。
発行が2002年と、今となってはやや古いが、歴史的背景などを記載した、イスラーム世界を学ぶ上での、まさに教科書のような一冊である。

イスラームのアッラーとは、ユダヤ教徒たちがいうところのヤーヴェと同じ神なのだ。
ちなみに、アッラーとは神ということであり、英語でいえば、GODということになる。だから、アラビア語では、キリスト教徒の神も、ユダヤ教徒の神も、アッラーとなる。(27ページ)

イスラム教もユダヤ教もキリスト教も、実は同一の神を信仰している、というのは世界史の教科書からも読み取れる事実であるが、認識していない日本人も案外多いようだ。
全て啓典の民であり、異教徒の結婚を認めないイスラム教にあっても、ユダヤ教徒、キリスト教徒との婚姻は可能なのだとか。

彼らがおこすテロには、大きく分けて二つある。一つは、外敵の侵入に対する抵抗運動としてのテロ、もう一つは、反政府運動としてのテロである。(24ページ)

そもそもイスラムという言葉自体平和を意味する「サラーム」から派生したと言われる。
過激派と言われる人々は本当にごく一部に過ぎない。
だが、彼らの宗教解釈の中でいかにしてテロが許容されるのか。
自殺を許さない教義の中で、どうして自爆テロが成されるのかも記載されており、この辺りは一読に値するだろう。

硬い話ばかりではなんなので、柔らかい話を一つ。
最近日本でも地位を得つつあるベリーダンス。トルコ等イスラム世界由来でありながらいい感じの露出度で、艶かしい感じの舞踊である。
花嫁の前で披露されるベリーダンスは「こういうふうにすると旦那が喜ぶわよ」という意味合いがこもっているのだという。(238ページ)

そもそもそうゆうものであるようなので、男性諸君は多いに鼻の下を伸ばしてほしい。

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  1. 2015年02月25日 09:57 |
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【読書183】ゴーストハント4 死霊遊戯

ゴーストハント4 死霊遊戯」(小野不由美/メディアファクトリー/ひたちなか市立図書館書蔵)


前巻に引き続き学校が舞台となる本作。
科学的解決、本格ミステリー調の古い怨霊、超能力ときて本作のテーマは呪いだ。
2巻目に続いて、正統派のゴーストバスターものだ。

緑陵高校で集団ヒステリー?新聞沙汰になる程、実害のある自体に、SSRに調査依頼が舞い込んだ。
調査のために訪れた高校は、過度な締め付け教育に校内で流行する特殊なこっくりさん、「ヲリキリさま」と、非常に険のある雰囲気につつまれていた。

発生する場所を移動し、その度に強力になっていく霊障に、調査は難航する。
そんな中、麻衣は共食いする霊の夢を見る。
共食いし、その度にレベルアップしていく霊。
そう、そこでは霊を使った蠱毒がなされようとしていたのだ。

シリーズとしては、麻衣が戦力となり、リンさんがかっこいい巻だ。
一方で、ぼーさんや綾子といったキャラクターたちの見せ場が少なく、なんだか賑やかしにしか見えなくなりつつある。

オーソドックスに想像がつくオチではあるが、ヲリキリさまの設定がなかなか凝っていて、好感がもてた。
どうやら私は本作にゴーストバスターものを期待して読んでいるようだ。

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  1. 2015年02月22日 10:54 |
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【読書182】白蓮れんれん

白蓮れんれん」(林真理子/集英社文庫)

歌人柳原白蓮。本名伊藤燁子(れんこ)。
華族の妾腹の子として生まれながら、九州の石炭王伊藤伝右衛門に嫁ぎ、人妻でありながら、社会運動家で法学士だった宮崎龍介と恋仲になりやがて駆け落ち同然に出奔する。
姦通罪がまだ成立していた時代、天皇の従姉妹であった彼女の出奔は、白蓮事件として、新聞各社を巻き込んだ報道合戦の様相を呈した。
近年ではNHKの朝ドラ「花子とアン」で仲間由紀恵さんが演じたことで知名度を高めた。

本作は燁子が伊藤家のへ嫁ぐシーンから始まる。
子をなし離婚歴があったとはえい、美しく、華族のお姫様であった燁子26歳、対する伊藤伝右衛門は51歳。
金で買われたといっても差し支えのない婚礼である。

そんな婚礼とはいえ、燁子には期待があった。女学校、暖かい家庭、あるいは実子。
しかし伝右衛門には多くの妾がおり、すでに子種はなく、女学校は資金援助をしたものの公立として運営されていた。
その全てを裏切られ、失意のなかで、財力があってはじめての遊び、そして社交に傾倒していく。

伊藤家に嫁いだ後に限っても燁子の人生にはいくつかのターニングポイントがある。

社交の場に馴染んでいくタイミング。
伝右衛門の看病をした時。
そして、宮崎との出会い、出奔。

事実をもとにしたフィクション、不倫のお話であるはずなのに、全体に夫であるはずの伝右衛門の気配が気薄という不思議な物語である。
それだけ、燁子の眼中になかったのかもしれないし、関わり合いを避けていたということなのかもしれない。

不倫であるのに、罪悪感や夫への申し訳なさのような気持ちはあまり感じられない。

燁子の出奔後に伝右衛門はつぶやく。
「あいつは馬鹿な女たい……」
低いおし殺した声で彼は言った。
「俺がなんも知らんと思うちょったのか。全く馬鹿な女たい」

伝右衛門自身、たくさんの妾を抱えて、それが燁子との関係性に溝を作った一因でもある。
そう考えると、身勝手な言い分にも聞こえる。
だけど、伝右衛門や伊藤家、柳原家を悪者にして、話し合うよりも新たな妾をあてがって伝右衛門から逃げながら、伝右衛門が気づいた財を享受する燁子よりは、伝右衛門に肩入れしてしまう気持ちが生まれた。

若い困難な恋のような、純愛物語のような、あっさりとした読後感が、むしろ気持ち悪い作品だった。

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  1. 2015年02月20日 10:22 |
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【読書181】文明を変えた植物たち ーコロンブスが遺した種子

文明を変えた植物たち―コロンブスが遺した種子」(酒井伸雄/NHK出版/ひたちなか市立図書館書蔵)


コロンブス以降、ヨーロッパ世界には新大陸原産の数々の植物がもたらされ、現代文明の礎となった。
その中でも影響が大きかったと思われる6つの植物が、ジャガイモ、天然ゴム、カカオ、トウガラシ、タバコ、トウモロコシである。

本書ではその6つの植物がいかに人間社会に関わり、支えているかを述べる。

◾︎ジャガイモ
栽培作物が属する大きなグループのうちの一つ、ナス科。
日本ではナス科と呼ばれるが、海外ではポテトファミリーと呼ばれるという。ナス、トマト、ジャガイモ、タバコ…。本書にも登場する多数の作物がこのグループに属している。

ポテトファミリー、その単語だけでも、ジャガイモがいかに身近で重要な作物であるか伺える。
食糧増産は人口の増加につながり、国力の増強をもたらす。
地下に食糧となる芋をつけるジャガイモは戦乱や災害にも強い。
冬の飢餓から抜け出したのは人間だけではない。家畜もまた、越冬させることができるようになったのだ。これにより、塩漬け肉の時代は終わり、生鮮肉食という新しい食事のステージがもたらされた。

◾︎天然ゴム
天然ゴムを含む植物は500種以上にものぼるという。
身近なところではたんぽぽである。茎を折るとでてくるあの白い液体には天然ゴムが含まれているそうだ。
たんぽぽの白い液が接着剤になる、という都市伝説があったが、まさか天然ゴムを含むとは。

合成ゴムの生産量が1200万トンに達する現在でも天然ゴムのニーズは衰えない。
現在の天然ゴムの主な用途はタイヤである。
合成ゴムでは一つの機能を強化すると、ほかの機能に不具合が生じる場合が多いという。対して天然ゴムは平均80点。万能のゴムはなのである。
高度1万メートル、気温氷点下60度と、着陸時の摩擦熱双方に耐えうるゴムは天然ゴムしかなく、また薄さ0.03ミリメートル、ピンホールや破損が絶対許されないコンドームの機能を満たせるゴムもまた天然ゴムのみである。

◾︎カカオ
チョコレートがカカオ豆から作られることは知っていても、カカオ豆がどのように作られるかを知っている人はあまりいないのではないだろうか。

果実から果肉を取り出し、放置して果肉の発酵をまつのだそうだ。
この発酵開始と同時にカカオ豆は発芽するのだが、果肉の発酵に伴う酢酸と温度によって発芽したカカオ豆はすぐに枯れてしまう。
この発酵がチョコレートの風味には重要とのことだが、うーん…。
なんだか生き物としての矛盾を感じる話である。

◾︎トウガラシ
植物は食害を防ぐための自衛として、苦味や辛味、毒性を獲得する。その一方で、種子を運搬してもうために赤や黄色、そして甘い実をつける。
トウガラシの場合、その実は赤く、しかしとても辛い。
猿や鹿などの野生動物すらも避けるトウガラシ。日本人の場合、12-20ppm程度でカプサイシンの辛味を感じるという。
はたして、トウガラシは食べてほしいのか、食べられたくないのか。

実は辛味を感じずにトウガラシを喜んで食べる生物がいるという。
それは鳥類である。
トウガラシの辛味は種の部分に多い。噛まずに丸呑みする鳥類であれば、あまり影響なく食べられるのだとか。
トウガラシは鳥類のみに食べられることで、種子を遠方まで運んでいるのである。

◾︎タバコ
ヨーロッパの人口の3/4が死に、致死率は7割を超えたといわれる伝染病、ペスト。
黒死病とも呼ばれるこの病気が、タバコの普及に一役買ったという。
曰く、喫煙すると、ペストの予防になる…。
今では信じがたい迷信であるが、登校前に一服を義務付ける学校まであったというから驚きである。

◾︎トウモロコシ
C4植物であるトウモロコシは単位面積当たりのエネルギー生産量が多く、比較的栽培環境を選ばない作物である。
飼料用や食品加工用として肉食文化を支える作物である。
原種が不明という珍しい作物であるらしい。

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  1. 2015年02月17日 10:56 |
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