[insoluble] (読み:インソルブル) クロスステッチとか手芸とか料理とか写真とかバイクとか動物園とか博物館とか水族館とかが好き。読書の日記です。 よろしくお願いします。

[insoluble] 読書と刺繍日記

【読書025】「跡形なく沈む」

跡形なく沈む」(D.M.ディヴァイン/創元推理文庫)


ミステリではなく、ヒューマンドラマとして評価できる一作。

タイトルは、最期まで読めばなるほどと思わなくもないが、伏線がないためやや無理やり感がある。
登場人物が多い点と、三人称小説ではあるが視点がルース→ジュディ&ケン→ハリー&アリスと急にずれる点で、読み手としては状況把握が少し大変だった。

小都市シルブリッジに現れた謎の美女ルース・ケラウェイ。
母の死後シルブリッジルースの区役所でタイプライターとして働きだしたルースは大きな憎悪を胸に抱いていた。

一人の死者と、一人の行方不明者。
過去の不正選挙疑惑に隠し子、それぞれの政治的な思惑。

小さな都市に投げ込まれたルースという小石に、波紋が広がるように疑念が波及していく。
複雑な人間関係の中で疑念が重なり合っていく様子は見事だ。
ジュディ(とケン)が主人公ととらえれば、ルースは非常にジョーカー的な立ち位置で、ジョーカーとしての役割をきっちり果たしている。

露骨なまでに触れられない一人の人物。
ミステリの犯人としては分かりやすすぎるが、ジュディを主人公として、ジュディとの関係性に着目して考えると、こうゆうのもありな感じがする。
ミステリとしては明らかに減点だろうが、サスペンス要素のある人間劇としてみると、なるほど、と思う。

実はミステリを読むのは久々だったのだけど、結構楽しめた。
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  1. 2013年03月30日 09:13 |
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【読書024】「昆虫食入門」

昆虫食入門」(内山昭一/平凡社新書)


うっすらとした"エビ風味"とでも言おうか。それが普通の虫の味(18ページ)

そうか。一般的な虫の味があるのか。そうか。
昆虫食が文化的に遠いものになっている自分にとって、なかなか衝撃的な一文だった。

表紙の後にカラー写真の口絵が8ページあり非常にインパクトがある。
前半は文化としての昆虫食や、日本国内における昆虫食の現状、「タイにおける食用昆虫の販売までのルート、価格が掲載されている。
実食の話や見た目の話も多く、昆虫が苦手な人間には少々辛い内容だ。

しかし、本書で読むべきは後半だ。
味に関する分析や試験の結果を述べた5章から、栄養や漢方の観点から昆虫の効能に触れた6章、さらには食糧生産の観点から書かれた7章にかけて、実に興味深い。

昆虫類が同じ節足動物であるエビ・カニなどの甲殻類と似たような味がする、というのは知識として知っていても、味覚センサーや評味試験の結果が掲載されていると、なるほどーと思ってしまう。

食糧生産の面から昆虫食の有益性を説くのは、昆虫食を広めようという立場から考えると非常に正しい。
近現代以前の日本でも、昆虫が貴重なタンパク源であったのは間違いないわけで。地域によっては今でも貴重なタンパク源であるわけで…。

筆者らが実際にシンポジウムや課外学習で講演、発表した内容とその反響にも触れており、昆虫食が食生活内にない現代日本人からの昆虫食がいかに思われているのかも面白い。

趣味の本ではなく、真面目に書かれた昆虫食の入門書であった。

ただ、昆虫食の有益性を理解しても、どんなにおいしさを強調されても、カミキリムシが食べてみたくは…、ならなかった。

私は虫は苦手。

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  1. 2013年03月28日 20:17 |
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【読書023】「遠い幻影」

遠い幻影」(吉村昭/文春文庫)


別の吉村昭作品のレビューを書いた際、コメントからご紹介いただいたので読んでみました。
吉村昭さんの現代劇を集めた短編小説集。

解説には「人生の一瞬の揺らぎを捉えた十二の傑作短編集」とあるけれど、まさしく揺らいだ瞬間の本人、周囲の人間たちが描かれている。
総じて、濃い時間を過ごさせてくれる作品たちだ。

まず最初に収録されている「梅の蕾」。

なんなんだ、この完成度は。
わずか30ページ足らずの作品なのに、ストーリーだけ見れば何の変哲もないよくある話なのに!
どのページが、とかどのシーンがと言われても困る。
とにかく完璧なのだ。物語が過不足なく完結している感じ。
「梅の蕾」を読んだ後、しばし呆然とし、続きが読めなくなった。

「ジングルベル」
こちらも妙に心に残る。
仮出所を控えた模範囚が所外作業中に脱走した。囚人を追う刑務官。
橋の中ほどで座り込んでいる受刑囚を見つける。
ジングルベルの曲が聞こえてきたんです。それをきいているうちに、なぜが胸が急に熱くなって自然に足が動いて…


読んだのが今だからこそ、という気もする。
もう少し、以前の自分であれば退屈に感じただろうし、もう少し後の自分であったら、気づかなかったかもしれない。
本書を読んだ自分側のタイミングも含めて絶妙だった。

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  1. 2013年03月23日 08:38 |
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【読書022】「おさがしの本は」

おさがしの本は」(門井 慶喜/光文社文庫)


主人公の和久山は、図書館レファレンスカウンター勤務の堅物公務員。
短大生のレポート本探しに、思い出の本探し。研修名目の難題本探し。
図書館を舞台に繰り広げられる本探し短編連作集。

図書をキーに、事件が起こり、解決していくという意味では、"文学少女"シリーズに似ている。
ただ、文学少女における事件がいわゆる事件でちゃんとミステリの体裁をとっているのに対して、本書における事件は、日常の普通の出来事。結末も本が見つかるかどうかだけ。
図書館のリファレンスカウンターが舞台だから当たり前だけど、本探ししかしない。

他で書評を見ると「探書ミステリ」なんて書かれていて、広義ではミステリなんだろうけど、アリバイもトリックもないので、個人的にはミステリと呼ぶのはちょっと抵抗がある。

残念なのは本探しの推理部分が弱い。もう少し濃く書かれていると、もっと評価が上がったかなぁ。
あと、後半は図書館の存続問題的な話になってくる。この辺も好みが分かれるところだろう。

でも好きな人は好きだろうなぁ、と思った。
自分自身がそうなんだけど、"文学少女"的な要素は好きだけど、"文学少女"のラノベ感がちょっと苦手という方は楽しめると思う。
"文学少女"好きな方は、好きだろうと思う。

印象に残ったセリフを一つだけ。
本は酒とおなじだ。ほどほどにしないと体をむしばむ。むしろ本のほうが、たちが悪いかもしれないな。百升飲めば酒飲みは恥じるが、本読みは読んだぶんだけ誇り顔になる。(194ページ)

言いえて妙だ。自分も気を付けよう。

そして積み本が増えていく。

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  1. 2013年03月20日 07:36 |
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【読書021】「ガンジス河でバタフライ」

ガンジス河でバタフライ」(たかのてるこ/幻冬舎文庫)


筆者が20歳頃にかけてした旅を振り返って書かれた一冊。
香港-シンガポール-マレーシアを経てシンガポールを旅するアジア編とひたすらインドをめぐるインド編の2章立て。

最初に巻末の筆者年表の様なものを目にしてしまって、その内容大いに白けた気分になりつつも、amazon高評価だしなーと読み始めた。
軽い読み口でさくさく読めるけど、かなり無謀な、命知らずな旅をしているように思えて、ちょっと評価に困る一冊。

学生時代、筆者同様にインドをバックパックしたという同僚がいるんだけど、インドの感想を聞くと「疲れる!」としか言わない。本書を読んで、読んでるだけでも疲れるな、とちょっと思った。
インド放浪について好意的に書かれている本書を読んでも(読んだからこそ?)、行ってみたい気持ちよりもドン引きの気持ちが勝る国インド。よくわからないけど凄そうだ。

基本的にはバックパック中の他人、現地の方や同じように旅行中の方とのかかわりに主眼が置かれている。
食べ物もおいしそうだし、しつこい物売りなどネガティブなことも、ネガティブ満載には書かれていないので、読後感は悪くない。
しっかし、知らない人について行ったりガンジス河で泳いで流れてくる死体に触ってしまったり。
破天荒で楽しげとも取れるけど、無謀な旅は、最終的には自己責任では済まなくなる可能性があるからなぁ。

もう、ひとつ残念なのは、本書が旅行から帰ってきて直後に書かれたのではなく、後に書かれたという点だろうか。
鮮明な記憶で書かれたものではなく、かつて旅した記憶としてよくも悪くも強化されているような感じを受けた。手記等を参考に書いてはいるのだろうけど、時間の経過とともにフレッシュな感情は失われているように思える。

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  1. 2013年03月18日 10:21 |
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